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写真提供 十勝毎日新聞社

Special Ambassador

鈴井 貴之さん

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2017年、秋。私が住む赤平市で買い物の帰り道、迷子犬に出会いました。真っ赤な首輪をした黒い雑種の小型犬。目も周りは白く、さながらパンダを逆にしたカラーリングの子でした。「どこからか逃げてきたのだろう」そう思うと車を停車し積んでいたリードとスーパーで買ってきたソーセージを手にその子に近づきました。当然、警戒し逃げていきます。それでも間隔を考えながらおびき寄せ捕まえることが出来ました。
 捕獲したものの赤平市には保健所もなく、どこに届け出ていいのか分かりませんでした。とりあえずは市役所に連れていきました。
 これにて一件落着なのでしょうが、そうはいきません。
 当時、私は自宅にゴールデンレトリバー、バーニーズマウンテンドック、ミニチュアダックスフンド、アイリッシュセッターの4頭と生活していました。家に帰ってからも捕まえた「あの子」のことが気になって仕方ありませんでした。
 翌日、市役所に問い合わせると隣町の保健所に預けたという返答がありました。気になり私はその保健所に足を運びました。冷たいコンクリートで作られた部屋は柵がそう思わせたのでしょうが、まるで刑務所のようでした。
 そこで一定期間、飼い主が見つかるまで預かるが、期限が超えると「さつ処分もありうる」という言葉が返ってきました。
 ショックでした。自分が捕まえた子が殺されるかもしれない。私は自分のS N Sや手作りでビラを作り、動物病院やスーパーマーケット、飲食店、郵便局、銀行など人が集まりそうな所を一軒一軒、自ら周り目のつきそうな場所に貼ってもらいました。
 しかし残念ながら飼い主は見つかりません。逆に3ケ月くらい前から市内を徘徊していたという目撃情報が得られるばかりです。首輪はしていましたから誰かに飼われてはいたのでしょう。でも3ケ月以上前から彷徨っていた。正直、小さな町で特徴のある顔の子でしたから、飼い主じゃなくとも情報は得られると思いました。でも飼い主情報は一切得られないということは、どこか遠くから来たか、もしくはこの町で捨てられたのかもしれません。
 そう考えるとやるせない気持ちが高まり、自分が捕まえたということもあり「その子」を私は引き受けることにしました。
 笑顔で迎えても、彼女(メスでした)は尻尾を振るでもなく威嚇してきました。
 「大丈夫だよ」何度も伝えました。家に連れて返ってきてお風呂に入れると真っ黒な泥が体内から流れ落ちました。
 しばらくは他の子たちとは別場所で飼育しましたが毎日威嚇してきました。それでもひと月くらい経った時、彼女は尻尾を振って出迎えてくれるようになりました。それからは大人しく愛嬌のある子として、他の犬たちとも仲良く過ごす日々が続きました。
 しかし我が家に来て11ケ月。彼女は旅立ちました。実年齢はわからないですが随分と老犬だったようです。
 たったの11ケ月でしたが、彼女はまさしく我が家の愛すべきワンちゃんでした。
 犬と人間は古くからパートナーなのです。そんな犬が幸せに生涯を過ごせる。そういう環境を作ってあげられるのは人間しかいません。犬を飼うのは人間の身勝手でもあります。ならばその人間の身勝手を犬自身に負わせるのは間違っていないでしょうか。さまざまな理由で犬を手放さなければならない状況もあるでしょう。でも犬には分からないことです。


 犬が幸せで一生を終えることができる環境が整うのを、犬を友と思う一人として願います。

 今、あの子は私の住む森の中で静かに眠っています。そこには白いライラックの樹が植えてあります。今年も春、満開の花を咲かせてくれるでしょう。
 

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